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『阿修羅城の瞳』で真価を発揮し『エスペラント!』に解放される礼真琴

武道館が宝塚の復活祭なら『エスペラント!』は礼真琴の解放祭だ。

 

『阿修羅城の瞳』含めても、無理をしている様子がない。こんなに伸び伸びとした姿、現役中に見れるとは思わなかった。本当に間に合って良かった。

 

『阿修羅城の瞳』は雰囲気も雪組っぽさがあり、そこが無理せず礼真琴らしさのままでいさせていた。

特に着物含め、衣装が全て礼真琴にピタッと似合っている。

これまでコスチュームの星組トップスターなのに、衣装に着られていた礼真琴。

最後の最後でちゃんと着こなした姿は新鮮であった。

 

礼真琴は同期~予科本科や生え抜き同士のような、ビジネス性が強まる前からの相手にはリアルさが出る。敵設定でも親密さが滲み出た、素が売りのアイドル芝居ともいえる。

 

反面、組替えで来た相手には、まるで鏡に向かっているように自己完結した芝居だ。

一人語りのように発散していく演技は今回、暁千星に対し存分に発揮されていた。

 

『Le Rouge et le Noir ~赤と黒~』でルイーズ・ド・レナールへの思いを勝手に高めるジュリアン・ソレルは、今回の病葉出門と重なるものがある。

当時は有沙瞳が深すぎるぐらい深い演技力と娘役芸で、礼真琴を抜群に格好いい男役に仕上げていた。

 

そして今回の暁千星は、まさしく鏡のように礼真琴と対時している。お互いの世界を侵食しないまま、それぞれの独立した芝居が凄まじい勢いで広がっていく。

 

これこそが「礼真琴の芝居とは」の答えに思う。無理に合っているように見せ(かけ)るのではなく、凸に凸で両者一歩も引かない。

まるで過去や未来へ自問自答しているようでもある。

 

これまでは売りが被っていて、同じタイプは何人もいらないのが本音であった。

しかし礼真琴は作品数のわりに、変な憂いなく行えた公演がほぼ無い。せいぜい武道館と今回ぐらいだ。110周年を中心に、果たせなかったことが多すぎる。 

悲劇のトップスターから全てを託される後任として、写し鏡のような暁千星である意義を痛感した。

 

様々な期待が絡む『阿修羅城の瞳』に対し、完全なる退団公演が『エスペラント!』だ。

前述の通りシンプルからゴテゴテまで幅広い衣装ながら、 着られている物が一切ない。

そして憑き物が落ちたように生き生き、伸び伸びとしている。別箱はともかく、トップスターになってからの大劇場でこんな礼真琴は初めて見た。

 

新トップコンビのお披露目に使い回されるのは『Tiara Azul -Destino-II』なので、純粋に礼真琴の退団だけを考えたレビューである。

 

これまでも礼真琴の舞台はワンマンショー的ではあったものの、 他退団者や次期シーンまで中心は礼真琴。暁千星がメインの場面も、あくまでも礼真琴のストーリーへの骨組み。つまり全てが礼真琴のシーンなのだ。

 

星組カラーの青=青い星がメインテーマだが、やはり「去る」ことに重点を置いている。

恋を得て日常に戻っていく姿、解放され地上へ飛び出す姿、人々との別れと舞台そのものへの別れ。

 

礼真琴にとって最初で最後の、純粋な「礼真琴のための舞台」だ。

このレビューだけは、ビジネスとしての忖度や邪念が一切無い。

 

サヨナラショーは武道館での『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』に続き、宝塚の改革を革命に重ねた『1789 -バスティーユの恋人たち-』が中心になった。大量の中止を補填してもいる。

本公演が毎日礼真琴サヨナラショー状態だからこそ、個人のサヨナラショーを宝塚歌劇団のために使えたのだろう。

 

活気と透明感あふれるレビューは、星組と礼真琴の恩返しをしあう心で出来ている。